紳士とのやりとりから2週間、約束の日が近づいてきた。回路は完成した。しかしクリティカルパスをなくす時間がなく、動作周波数が 270 MHzにしかならない。当初は500 MHzを目標にしていた。クリティカルパスとは、回路の中で電気信号の遅延が大きい部分のことで、それができないように論理回路を組まなければならないのだが、難しい。学術的にはどうでも良い。しかしあの紳士を黙らせたかった。
オーバークロックしかない。270 MHzは生産したどのFPGAも摂氏-40度から100度のいかなる過酷な環境でも動くという非常に厳しい条件のもとコンパイラが叩き出した数字だ。270 Mhzを無視し、320 MHzで動かしてみた。余裕で動く。1秒間に1兆回の論理演算が行われるはずだが、微塵も間違えない。FPGAはよっぽど厳しめの設定で出荷されている。今時のCPUはオーバークロックの余地がほとんどなく、最近はめっきりやらなくなった。10年前くらいは、買ったCPUは必ずオーバークロックしていた。あの時の喜びを思い出した。なんで500 MHzで動かさなかったかって?それは私に勇気がなかったからだ。回路がとち狂うと精神的なダメージが大きいんだ。
人々は、計算機で計算することの喜びを度々忘れてしまう。最近はAIが動くなぁくらいにしか思ってないのだ。今の若い人がそこをスタートラインとして計算機に触れる現状は、みていて悲しい。子供達、留年し就活に失敗してでもFPGAに触りたければ私のところに来るといい。