通信の秘密について少し話してみよう.他人あての手紙を開封したら犯罪であることは知っているだろう.憲法第21条にも書いてある基本的なことだ.では電子通信(メールや,チャット,SNS)はどうだろうか.これは現在守られていない.なにかが曖昧なようだ.
営利団体が提供する通信サービスの利用規約には,中身を開封すると書いてあることがほとんどだ.私は組織の規則から久しぶりにWebブラウザでメールを書いていると,勝手に文章が追記されていくことに驚いた.これは,つまり私が記載したメールを読み込み,予測文字列を生成しているのだから,勝手にメールの内容が読まれているという事だ.
通信サービス(よく通信アプリという.)の規約を少し読んでみるといい.通信内容を解析すると書いてあるから.解析するということは,端的に言って「愛している」と書いた数を算出するということだ.単語の頻度を算出することが文字列の最も基本的な解析の一つだからだ.もちろん誰に愛していると送ったかも記録され,関係性グラフが作られるだろう.あなたの使っている通信サービスは,あなたの交友関係を把握している.AさんがBさんに一生懸命恋のアプローチをかけている瞬間を,観察されていたってなにもおかしくはない.そんな瞬間を検知することは,今の自然言語処理の水準から言って容易い.
解析を可能とするために,通信サービスはサーバとアプリ間の通信だけを暗号化し,サーバ上のデータを暗号化しないか,暗号化していたとしても,利用者の許可なくいつでも解読できるようにしてあるはずだ.じゃ,何使えばいい?,という方,signal をおすすめする.これはオープンソースだ.ソースコードが公開されているのだから中で秘密裏にデータが抜き取らる可能性は,ほぼない.
そんなこと言ったって,通信サービスを使っていたら全部同じじゃないか,と思うだろうが,end-to-end の暗号化,というものが存在して,サーバ上をメッセージが経由したとしてもその中身は受け取り側しか解読できないようにすることが可能なのだ.end-to-end,略してE2Eだ,よく覚えておこう,情報を抜き取りたい勢力が大嫌いな通信方式だ.使っているサービスが,end-to-endの通信に対応しているか,確認してみるといい.signalは対応している.みんなが使っているアプリを使うしかないじゃないか,と思うだろう.アプリなんか,普及するほどに簡単に入れられるんだから,別のアプリを友人間で入れたらいい.
これ,特に,将来重要案立ち位置につく人にはよく知っておいてほしい.自分の通信が把握された程度で何も問題はないとほとんどの人は言うが,ほとんどの人にとってはたしかにそうだが,例えば総理大臣が,外交上問題のある国に通信が把握されているサービスを使って家族友人と連絡を取っているとしよう.その大臣には護衛がついているけど,友人方には護衛がついていないのだから,簡単に人質に取れるだろう.さらに悪いことに,デジタル通信は記録を長い間残すことができる.将来対策するのでは遅いのだ.偉業をなすつもりがあるなら,今から通信の秘密について考えなければならない.
現状を一緒に変えよう.日頃の通信という,もっとも大事なところから変えるのだ.画像が流出したとか,E2Eで起こり得ないんだよ. メールのE2Eの暗号化には,OpenPGPを使えばいい.例えばThunderbirdで設定方法の紹介がある.パスワード後で送ります,などとやる必要はない.